社会を混乱させる放射線医学・防御の専門家

2011年05月07日

「社会を混乱させる放射線医学・防御の専門家」

中部大学の武田邦彦さんのブログからの転載です。

社会を混乱させる放射線医学・防御の専門家



福島原発の事故が起こって、わたくしがびっくりしたことの一つに、放射線医学もしくは防御の専門家が、これ程大きくその考え(および発言)を変えるとは思っていなかったことです。

わたくしは、原子力の燃料を研究し始めた若い頃、放射線の仕事をする限りは、放射線と身体のことをよく勉強しておかなければいけないと思い、第1種放射線取扱主任者という試験を受け、免状をもらいました。

この資格は、放射線を取り扱う専門家にとっては、最もレベルの高い資格で放射線を取り扱うところは、必ずこの資格を持った人がいなければいけないことになっています。

でもわたくしは、放射線と人体の関係を「研究する」という意味では、専門家ではありません。わたくしはあくまでも原子力関係の専門家であり、その仕事をするに必要なものとして放射線取扱主任者の試験を受けたのです。

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わたくしは、福島原発事故が起こってから「1年に100ミリシーベルトまでは大丈夫だ」と言っている「その人たち」に、長い間、真逆のこと、つまり「1年に1ミリシーベルト以上は危ない」と教えられてきたのです。

放射線医学の専門家は、自信を持って次のように話してくれました。

「放射線による人体の障害は2種類あって、100ミリシーベルト以上では、放射線に被爆した人に何らかの障害が出る。明らかに出るのは250ミリシーベルト程度である。

これに対して100ミリシーベルト以下の被爆では、確率論的に患者が発生する。確率論的とは1人の人が被爆したから、その人が発症するというのではなく、10万人の集団が被曝すると、その中から確率的にある数の患者が出るということである。

確率論的に患者が出るかどうかということについては、長く議論されてきたが、1990年の ICRP の勧告以来、国際的には確立しており、日本の法律もすべてそれに準拠している。

放射線では確率論的に患者が発生するということを頭に叩きこんでおかなければならない。」

わたくしにこのように教えてくれた先生がたは、福島原発の事故が起こると突然、態度を翻し、

「武田は専門家でもないのに、いい加減なこと言って人心を惑わしている」

と言い出したのです。

わたくしは年でもあるので、わたくし自身が批判されることについては全く気にしていませんが、とにかくビックリしました。

そして、この発言が多くの人を惑わし、また政府の政策を狂わせた原因にもなっています。

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もしも放射線の専門家が20年間にわたってわたくしに教えてくれたことをそのまま社会に発信していたならば、政府は「1年に1ミリ以上は危険である」という国際基準と国内法を守る政策を採ったでしょう。

それはとてもすっきりしているので、1年1ミリ以上になる可能性のあるところには、政府が数1000台のバスを手配して(ソ連がそうだった)避難することができたでしょうし、多くの人は一つの基準を守って安全な生活をすることができたと思うからです。

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多くの放射線医学の専門家や放射線防護に携わっている人が真面目な人であるということは、わたくしはよく知っています。

だからこそわたくしは驚いています。

確かに個人的には、確率論的な患者の発生に対して批判的な学者もいましたけれども、全体としては完全に一致していたのです。

その一つの証拠として、わたくしのところに放射線医学の専門医になるための国家試験問題を送ってくれた医師の先生がおられます.

国家試験では「確率論的に患者が発生する」ということが正解である問題が毎年のように出ていたこと示していました。

国家試験に出るような確実な問題なので、それを福島原発の事故が起こったからといって、急に180度転換するというのは極めて奇妙なことです。

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今からでも遅くはありません。

放射線医学もしくは放射線防護の学会や研究会は多くあります。

できるだけ早く臨時大会を開き、「確率論的に患者が出るということを否定する」のか、もしくは「従来の立場を貫く」のか、その理由は何か、それを社会に発信しなければなりません。

社会はこの関係の専門家の発言のために、大きく揺れ、また被爆者を出すことになりました。

早く「専門家集団としての見解」を明らかにして欲しいと思っています。

(平成23年5月7日 午前11時 執筆)


武田邦彦

引用元頁:http://takedanet.com/2011/05/post_308e.html


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