法律

2011年05月28日

「幼稚園の砂場と園庭 ・・・ あるお母さんから」

中部大学の武田邦彦さんのブログからの転載です。

幼稚園の砂場と園庭 ・・・ あるお母さんから



お子さんが通っている幼稚園の砂場と園庭の土を、ご自分がお金を払って検査したお母さんがおられます.

場所はさいたま市、結果は次の通りです(1キログラムあたり).

ヨウ素-131 109ベクレル

セシウム-134 412ベクレル

セシウム-137 432ベクレル

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この結果を法律的に見てみましょう。

529_1

日本の法律はすべて同じ数値を使っていますから、どれでも良いのですが(文科省、厚生労働省など)、ここでは幼稚園なので、厚生労働省の「電離放射線障害防止規則」を示します(添付のものは何時もの通りダブルクリックしたらよく見えます)。

古い規則(法律)ですが、今年に改正になっています.

529_2

この条文では、「事業者」(つまりこの場合は汚染した東電と、土地を管理している幼稚園)が、放射性物質である場所を汚した場合、

1) 汚染が拡がらないようにすること、

2) 人が入らないように標識を立てること、

3) 表に示す値の10分の1に下げること、

が定められています.

529_3

そこで、ここの別表というのを見てみると、アルファ線を出すものとアルファ線を出さないものに分けていますので、アルファ線を出さない値、つまり1平方センチメートルあたり40ベクレルが基準です.

このお母さんが砂場や園庭の土をどのぐらいの深さでとったかは不明ですが、普通は3センチぐらいでしょう(福島原発事故の少しあとに、IAEAと保安院の測定値が違ったのも、掘る深さが原因で、このようなことは専門家でもあまり厳密には出来ないので、お母さんのサンプルの採り方は問題はありません.)

次に土はもともと比重が2.2ぐらいですが、空間もあるので、見かけ比重が1.0とすると、1キログラムの土を3.3センチの深さでとったら、面積は、

3.3センチの深さ×300(平方センチメートル)=1リットル=1キログラム

となります。

つまり、測定値を300で割ると、1平方センチメートルの値になり、表の数値を比較する事ができます。

また、複数の放射性物質の場合はそれぞれの割合を合計すると決まっていること、この場合は全てが同じ基準なので、953ベクレルになり、1平方メートルあたり3.2ベクレルという計算になります。

管理者は基準値の10分の1にしなければなりませんから、標識を立てなくても良いのは4ベクレルです。

【結論】

1) 基準に対してギリギリ、セーフ、

2) 幼児ということを考えて基準の3分の1(幼児の感度補正)をすると、除染限度の2.5倍、

3) 従って、このままでも法律違反ではないが、今は空間、食材からの被曝もあるので、幼児の健康のことを考えると、表土を少し削った方が安全、

と言う結論に達します.

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素晴らしいお母さんです!!

おそらく埼玉県のさいたま市では「福島原発から遠いから」という理由で行政は動かないでしょう.

でも、お母さんは自らのお金を出して、測定してもらったのです.もし、この値が2倍だったら、砂場は「標識で囲わなければならない」という場所だったのですから、思い切って土をとって測定に出したことは良かったと思います.

これをするには、幼稚園が認めてくれること、土をビニール袋にいれて測定機関に送ることなど、多くの面倒なことがあったと思います.

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いろいろ、考えることがあります。

さいたま市が今、どのようなサービスをしているのかは不明ですが、普通の場合は自治体はなにかと理由をつけてお母さん方の不安を「口先」で解消しようとします。

でも、普段、市民から税金をいただき、お給料を受け取っている市役所の人としては、こんな時こそ、恩返しをするときなのでしょう.

口先で言うのではなく、「測定して不安を解消する」という積極的な行動をするのがよいと私は思います.

もう一つは、私たちは税金を半分ぐらいにして、このような時に自分たちで使うのはどうでしょうか?

これは名古屋が市民税10%減税で行っていることですが、「税金を減らして、その分、市民一人一人が市のためにお金を使う」というおことを進めています.

さいたま市がこのお母さんの功績に対して、どのように報いてくれるのか、それも注目するべきことでしょう.

とにもかくにも、あまり酷い数値ではなくてホッと一安心です.

(平成23年5月28日 午前9時 執筆)


武田邦彦

転載元頁:http://takedanet.com/2011/05/post_4a28.html

soranimukatte_23 at 14:35|Permalink

2011年04月25日

「原発七不思議 神になった専門家」

中部大学の武田邦彦さんのブログからの転載です。

原発七不思議 神になった専門家



日本には日本人を放射線の害から守る「法律」というものがあります。それは長く国民を伝染病から守ってきた「伝染病予防法(現感染症法)」などと同じように大切な法律です. 

いざ、伝染病が流行した時に、医師という専門家が「こんなに患者が多いのじゃ大変だ」という理由で「伝染病はたいした事はない、伝染病予防法は守らなくても良い」と言えるのでしょうか?

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放射線については、各省庁でそれぞれの法令ができていますが、たとえば、厚生労働省の「電離放射線障害防止規則」というのは、昭和47年に制定されて、今年になっても1月14日に改訂されています。

このような法律は「被ばくと健康に関する国際勧告」に基づいて、国内で「放射線と健康の専門家」が、「それぞれの関係省庁」で検討し、国内の法律や規則を改定して、今に至っています.

日本国民を放射線の害から守るのですから、あらゆる知恵を動員して作られています.

そこには、放射線の「業務」を行うところについて、明確に次のように書かれています(たとえば第3条:管理区域)。

1.
放射線量=外部+内部、

2.
3ヶ月で1.3ミリシーベルトを越える怖れがある場合、かならず標識で明示する、

読者の方の中には、専門家が100ミリと言ったり、政府が20ミリで規制したりするので、私に「武田の言う1ミリとか1.3ミリという根拠は何か!勝手なことを言うな!」という人もいるけれど、騙されているだけです.

「1年1ミリ」は武田説でもなんでもなく、国際勧告と国内法で定められている数値です(1年1ミリは人、3ヶ月1.3ミリは場所で実質的な内容は同じ。)

なにしろ、国際勧告や国内法で「日本人の健康」を決めるのですから、膨大な研究データやチェルノブイリなどの詳細な報告に基づいて決めていることです。だから私はその根拠を特に示すことを止めています。

普通の人が膨大な資料を見て、今更「1ミリは適当か」を判断しようとしても、2,3年はかかるからです.だからこそ、「専門家」が何10回も検討を重ねて、法律で定めているのです。

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ところが、3月12日、福島原発が破壊した途端、専門家は神となり、公務員は法律を捨てました。今では、彼らは必死で「日本に法律の規定がある」ことを隠そうとしています.

枝野官房長官はうっかり「一般人の限度は1年間1ミリだ」と発言しましたが、これが唯一かも知れません。本来は子供の健康を守るはずの文科省も「法律には一切触れないお触れ」を出しています.

人の健康、それも強制的なこと(学校に通うなど)に適応するのに、1ミリという法律を隠して、自分が100ミリと思うから、20ミリでなければ自分の仕事に具合が悪いからという理由で「人」は「他人の運命を勝手に決める権利」はないのです。

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専門家は神になったのです。

「1000人で5人ぐらいガンが増えても問題は無い」とある専門家は言いました。それは雑談なら良いですが、強制力(仕事やお金、学校、食材などの全て)を伴って自治体も神となりました.

人間は「神」になってはいけません。

事故が起こって現実に被ばくしている人がでている最中ですから、「新たに検討する時間」は与えられていません。

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専門家は神になってはいけない、

NHKは神になってはいけない、

医師は神ではない、

政府は法律と法の精神を捨ててはいけない、

文科省は児童に20ミリを強制できない、

いかに政府でも人の運命に拘わることを神の代わりに決めることはできない、

誰もが、「1年1ミリが適切か」を判断してはいけない。

誰もが、「1年1ミリ」以外の数値を言ってはいけない。

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私たちが長い間かけて、研究と経験を積んで決めてきた「これで健康を守ろう」という数値を今、ご都合主義で変えてはいけない。

変えなくても被ばくを避けることはできる。一刻も早く1年1ミリを守ると宣言して、福島とその近県の人の命を守らなければならない。
今からでも遅くない。政府も市長も、医師も専門家も、神から降りてください。
100ミリと1ミリでは、約5000人のガン患者が発生すると予想されます(国際的合意に基づく数値、武田説ではない). 
だから、「100ミリで良い」と言いつづける専門家・医師は「私財」をなげうって、患者さんの救済に当たって欲しい.

20ミリと1ミリでは、約1000人の児童・生徒が被ばくでガンになる. 文科省で20ミリの決定に関与した役人は、その責任を「私財」で贖うべきである.

(平成23年4月25日 午前7時 執筆)

武田邦彦



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